物置の中には怖いお化けがいて、悪い子どもを食べてしまうんだよ。

お父さんは、ぼくに何回もそう言った。
うそだよ、そんなの。ぼくはいつもそう思ってたけど、ぜったいにそんなのいないと思ってたけど。
窓のないお部屋はいつもまっくらで、ぼくがもう遊ばなくなったオモチャとかお母さんのお洋服とか、冬になって出すストーブとか、いっぱいつめこんであった。
いつも暗くて、かくれる所はいっぱいあるけどお化けなんていないに決まってる。
でも。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、いるかもしれないって思うときもある。
だから、イタズラして怒られて、それで入れられた物置はすごく怖かった。


お父さんのネクタイに、サインペンで野球のボールの絵をかいたから。
でもその方がカッコイイと思ったから。ごめんなさい。
うん、かっこよくなると思ったのはほんとうだけど、でもホントのホントは買ってもらったばっかのピカピカのサインペンを使いたかっただけ。いつもの落書き帳にかくんじゃもったいないなって思ったから。
いけないかなって、ちょっと思ったけど、でもかっこよくなるならいいかなって。悪いことかもしれないって思ったけど、やってみたかった。


ごめんなさいごめんなさい。もうしません。
ごめんなさい、ごめんなさい。


ぼくは、物置の戸をどんどんとたたいて、いっしょうけんめい謝った。



ごめんなさい。お父さんのネクタイにラクガキしてごめんなさい。もうしません。



何回も何回も、お父さんが物置の怖いお化けの話をぼくにしたぐらい何回も謝った。
涙がボロボロ出てきた。
だってぼくは悪い子だから。ごめんなさいって謝って、ゆるしてもらわないとぼくは悪い子のままだから、物置のお化けに食べられちゃう。
食べられちゃったらもう遊べない。イタズラもできない。みんなに会えない。
息ができなくなって、はながぐずぐずいったけど。ちっちゃな妹みたいにたくさん泣くのははずかしかったけど、もう止められなかった。
上手にごめんなさいって言えなくなったけど、でもぼくはそれでもいっしょうけんめい謝った。
泣いて疲れて、それでもまだ謝ってたら、物置の戸があいた。


えっ?
ビックリして見たら、そこにお父さんがいた。
ぼくは疲れてたけど、立ち上がってお父さんに抱きついた。それからぼくはまたごめんなさいって言ったら、お父さんが頭をなでてくれた。


「怖かったか?」って言って笑ってくれた。
ぼくは、うんって言って、もう一回ごめんなさいをした。



「もうペンでいたずらしちゃ駄目だぞ。それともう泣き止みなさい」
お父さんが困った顔をしたので、ぼくはほっぺをごしごしして涙をふいた。でもまだ出てくるから、ぼくも困ってしまった。ぼくが困ってると、お父さんはもっと困った顔をした。



「しょうがないな。大丈夫だよ、物置にお化けなんていないから」
「いないの?」
「いないから、もう泣き止みなさい」
うん、ってぼくはうなずいて、だけどちょっとムッとした。
すごくすごく怖かったのに、もうお父さんともみんなにも会えなくなると思ったのに。


「う、嘘つきは……」



―――悪い子。



おっきな口が、いきなり物置の中からとびだしてきた。
口はお父さんよりおっきくて、それで、それは口だけだった。
おっきな口がお父さんをパックリと飲みこんで、また引っ込んでいった。


どうしたんだろうって思って、何があったんだろうって思って、それでもどうしようもなかった。
お父さんがどうなっちゃったのか全然わからなかったけど、だけど一つだけわかった。


悪い子だったのは、お父さん。







身内で怪談しよか!って言ってたときのSS。
しっかしコレ全然怖くないな!


05' 12/08UP