「蜥蜴なんてどうですか?」
「…は?」

僕の肩を撫でさすっていたアイツがいきなり突拍子もないことを吐かすから、僕は思わず素っ頓狂な返事をしてしまった。蜥蜴?何のことだろう。


「おまえの肌がこんなにも綺麗だから。なにか彫ったらいいのにって思ったんですよ」
「いやだよ。めんどくさい」

しつこく絡みつくアイツの腕を振りほどいて僕は呟く。服、返してくれない?
部屋の隅に、クシャクシャに丸めて投げ捨てられた僕のシャツがある。先刻乱暴に引き千切られて、ボタンは殆ど弾け飛んでしまっていた。

僕の言葉を聞いてか聞かずか、アイツはまだブツブツやっている。
「蛇…蠍でもいいかもしれませんね……」
「刺青なんて彫る気はないから」
「あ」
「何」

「蝶。」

ヒラヒラと自由に飛んでると思えば気まぐれに花の上にとまったり。
空を舞う姿はひどく蠱惑的で。ねぇ、おまえにぴったりじゃないですか。


背後から抱きしめられる感覚。
最中はこれ以上ないほどに酷い扱いをするくせに、事が終わればまるで別人のように優しい。
こういうのもアメとムチというのだろうか?
アイツの胸に凭れながら甘い声に身を委ねる。

「ほら…丁度このあたりに、」
そう言ってアイツは、僕の左腕を後ろから掴み、手の甲から肘に向かって撫で上げた。

鳥肌が立った。気持ち悪いのに気持ちいい。

「だから僕は彫らないって」
「彫らなくてもいいですよ」
彫らなくてもいい。何が言いたいんだ?

「そのかわりに。」

耳元で甘い声が囁く。



僕の蝶になってください。



「…意味わかんないんだけど」

「僕だけを惑わす存在に。僕のためだけに舞う存在に。
そういうことですよ…蜘蛛の巣に絡めていつまでも側に置いておきたいんです」
「抽象的すぎてサッパリだね」
ふん、と鼻で嗤うと、アイツもわらった。

「でも気をつけてくださいね」
「何?」
「あんまりフラフラ飛んでると、羽根もいで喰い殺しちゃいますから」
「……」
「僕は短気な蜘蛛だから。」


甘いはずの声が冷気を帯びていて。
存在しないはずの手の甲の揚羽が、アイツの視線に貫かれて痛んだ気がした。



「……意味わかんない……」

聞こえないほど小さな声で呟くと、僕は目を閉じた。
腕のいい彫師でも探してみようかな、なんて考えながら。




意味わかんない…は自分の心の声であり読者の方の代弁でもあると思う

書きたいことと結果が食い違い…あああ切ない。
お題とアレ食い違ってるし。だめだめだー
急いで書くとだめですね。精進します。


20051003UP